エレファント

精密に演出された偶然。さまざまな人間の他愛ない行動の線が、行きつ戻りつしながら交差するさまが、計算され尽くした演出で描かれる。

人はそれぞれ別々の目的や欲望の元に動いており、同じ建物の中に居合わせたとしても普段は接点を持つことはない。それを象徴させるために、各シーンで話題となる人物の周辺の風景は極端にぼかされる。図書館で銃を乱射する犯人の視界も焦点を結ばない。犯人の行動さえも抽象化され、日常のありきたりの風景という文脈の中に取り込まれる。そこには人間同士の関係の希薄さも象徴されている。

しかしガス・ヴァン・サント監督もドラマタイズの誘惑から自由でいることは難しかったようだ。後半の銃乱射シーンに時間を与えすぎた感がある。ここまで詳細に描き込むとどうしてもそこに「意味」が生まれてしまう。犯人の冷酷さを焼き付けることで、事件の特異さをあぶり出そうとする意図を感じざるを得ない。この映画の場合はあくまでも日常と並列に置かれた犯罪という形にこだわって欲しかった。